ごあいさつ
2020年度日本造園学会開催を迎えて
このたびは、2020年度日本造園学会全国大会にご参加いただきより感謝申し上げます。
今年度、日本造園学会は前例のないウェブ上での全国大会を開催する運びとなりました。このような形での全国大会は初めての試みではありますが、数多くの方々の尋常ではないご努力によって、この大会が実現したことを改めてここにお伝えしたいと思います。
本学会の全国大会は、毎年一回、すべての会員が等しく同じ場所に集い、学術的な交流、情報の交換、さまざまな人的ネットワークの構築を行うことを目的としており、学会が最も重要視してきた催しです。長年にわたって全国大会が果たしてきた役割は計り知れないものであり、これによって造園学という学際的な学問分野が発展してきたことは誰もが認めるところでしょう。
コロナ禍というわずかに数ヶ月で全世界を覆い尽くした未曾有の出来事によって、現在の地球はかつてない危機に見舞われています。遺憾ではありますが、この事態は当面、我々が受け入れていかない限り、解決の道は見えない状況にあります。造園学は直接的な問題の解決に関与できる学問分野であるとはいえないかもしれませんが、外出自粛等によって自由な行動が制限され、精神的に厳しい状況に追い込まれる方々が急増している中で、緑が与える効用をより具体的に解析・理解・伝達し、表面化するストレスの緩和を提案していくという役割を担っています。
これは、より優れた、また効果的な環境を持つ空間を提供するための努力を今まで以上に継続していく必要があることを意味しています。それが、「新しい生活様式」である必要があるかどうかはともかく、そこで求められている、「人との距離を保つ」、「屋外を選ぶ」、「公園はすいた時間・場所を選ぶ」、といった条件には、造園学会からの提案によって実現性を高めることができる可能性が秘められています。そこでは、学会としての学術的な情報の提供と統合、より優れた環境を維持していくための技術的な切磋琢磨、人々により安心できる空間を提供するための計画面での工夫、それらの空間の質を高めるための芸術的な視点、等が求められます。造園学会はこれらを可能にできる数少ない学会の一つであることを私たちは再認識する必要があります。
今回の全国大会では、残念ながら、直接膝を交えた議論はできませんが、上に述べたような議論を少しでも行っていただきたいと考え、敢えて中止という選択肢は選びませんでした。見学会や懇親会が実施できない不自由な環境での大会とはなりますが、是非、この機会を有効にご利用いただき、近い将来に向けた発展的、前進的な情報交換が積極的に行われることを期待しております。
最後に、本来であれば会場を提供いただけるはずであった兵庫県立大学に心から感謝申し上げたいと思います。また、会場の利用ができなくなったにもかかわらず、開催の準備に関して献身的なご努力をいただいた運営委員会、本部の企画委員会、学術委員会、総務委員会、編集委員会等をはじめとする多くの皆さまに深謝申し上げます。これらの皆さんのご努力なしには今回の大会は開催できませんでした。
参加者の皆様には、是非ともこの機会を有効にご利用いただき、近い将来改めて訪れるであろう、平和で自由な社会の構築に向けて、話し合っていただきたいと思います。活発な議論を期待いたします。
日本造園学会会長:柴田昌三