【上原敬二賞】石川 幹子 氏
石川氏は、1972年に東京大学農学部農業生物学科緑地学研究室を卒業後、1976年にハーヴァード大学デザイン学部大学院ランドスケープ・アーキテクチャー修士課程を修了され、1994年東京大学大学院農学生命科学研究科において、博士(農学)を取得された。その後、2001年に岩波書店より『都市と緑地』を出版され、日本都市計画学会論文賞を受賞されており、内閣府第二回「みどりの学術賞」を受賞されている。
石川氏の研究テーマは、緑地を「社会的共通資本」すなわちグリーン・インフラストラクチャーとして捉え、計画論・政策論・デザイン論について近代都市計画の系譜を掘り起こす中で今日的意義を定位するものである。同時に、石川氏は社会実装を車の両輪として実践しておられ、国内外の様ざまな設計競技や緑行政施策、住民活動に参加され、公園緑地の設計、緑のまちづくりを牽引してきた。
主な作品としては、EU国際基金による「21世紀の公園」(2004年、第一位、マドリッド)があり、都市の下水処理水の浄化システムを微地形のデザインとして組み入れることで失われた川の再生を行ったものである。2005年には中国瀋陽市で中央を流れるハン川に約500㏊の中央公園を計画し(国際競技設計第一位)、現在、市民の憩いの場となっている。2018年には、ブータン王国首都ティンプー市において気候変動に対応する水循環の回復を目指したロイヤルパークの構想を提案し、整備が始まっている。国内では、岐阜県各務原市の「水とみどりの回廊計画」(緑の都市賞・国土交通大臣賞)に基づき「学びの森」「自然遺産の森」「瞑想の森」を設計し、「土木学会デザイン賞最優秀賞」「日本都市計画学会計画設計賞」を受賞している。また、古都鎌倉の緑地保全に長い間取り組まれ、詳細なビオトープ・マップを協働で作成され、緑地保全に向けた学術的基礎を提案した。都市再生をグリーンインフラの視点から実施したものとしては、葛飾区にいじゅくみらい公園(工場跡地のGI)、新宿区おとめ山公園再生(公園緑地コンクール・国土交通大臣賞受賞)等がある。
石川氏の研究活動で特筆すべきは、大規模災害の復興をグリーンインフラの構築により実践している点にある。2008年に発生した「四川汶川大地震」では、国際チームの一員として復興グランドデザインを策定し、10年後の今日なお、「林盤」という世界最古のグリーンインフラの再生に基づく農村復興を継続している。この長年の支援活動が評価され、2020年に「都江堰市最優秀人材栄誉賞」を授与された。また、2011年の東日本大震災では、沖積平野のレジリエント復興理論として「自然立地的土地利用計画」を導入し、多重防御の考え方に基づき、海岸林の再生、防災集団移転促進事業のなかで、郷土の歴史的景観である居久根(いぐね)の再生を実現している(日本都市計画学会石川賞)。
石川氏の功績として、教育活動も重要である。氏は工学院大学建築学科、慶應義塾大学環境情報学部、東京大学工学系大学院都市計画専攻、中央大学理工学部人間総合理工学科、中央大学研究開発機構において「造園」という分野を創設し、後進に大きな道を切り拓いてきた。多くの優れた人材が、そこから輩出されている。「それぞれの場所に歴史があり蓄積があり、大地の聲に耳を澄まし、人の思いを組み込んでいくことが何よりも大事である」と語り、その薫陶を受けた研究者・実務者等が現在、第一線で活躍している。なお、2001~2002年度に本学会理事も務めている。
以上、学術・実務・教育を融合させつつ社会実装を通じて「社会的共通資本」としての緑地の存在価値を広めたことは、造園学の発展に顕著な貢献をしたと認められ、上原敬二賞にふさわしいものと判断した。